人工DNA切断酵素によるゲノム編集
近年、様々な生物種において標的遺伝子を改変する技術として、人工ヌクレアーゼ(ZFNやTALEN)やRNA誘導型ヌクレアーゼ(CRISPR-Cas9)を利用した“ゲノム編集”が注目されている。人工ヌクレアーゼは、DNAに特異的に結合するドメインと、制限酵素FokIのDNA切断ドメインを連結させたキメラタンパク質で、標的遺伝子にDNA二本鎖切断(DSB)を誘導する。CRISPR-Cas9システムでは、短鎖のガイドRNAを標的に結合させCas9によってDSBを誘導する。これらのDSBの細胞内での修復過程を利用して標的遺伝子を改変する技術が”ゲノム編集”である。
我々は、オープンリソースを利用した人工ヌクレアーゼの作製方法を確立し、ウニ胚をモデルとしてZinc finger nucleases (ZFNs)による遺伝子破壊(Ochiai et al., Genes Cells, 2010)およびレポーター遺伝子のノックインを行ってきた(Ochiai et al., PNAS, 2012)。ZFNに加えて、植物細菌Xanthomonas由来のTranscription activator like effector(TALE)のDNA結合ドメインを利用したTALE nucleases (TALENs)による遺伝改変技術を確立し(Sakuma et al., Genes to Cells, 2013)、培養細胞や様々な生物(ラット、マウス、カエル、ゼブラフィッシュ、ホヤ、ウニ、ショウジョウバエ)での遺伝子改変を行ってきた。さらに、CRSIPR-Casのマルチガイドシステムを確立し、培養細胞での効果的な遺伝子改変を報告している(Sakuma et al., Sci Rep, 2014)
ウニを実験材料とした研究
当研究室は、長年にわたってバフンウニを用いて形態形成の仕組みについて研究を行ってきました。そこで、ウニとはどのような生き物なのか、ウニを用いた研究にはどのような利点があるのか、当研究室で撮影したウニ胚の画像とともに紹介する。
ウニの16細胞期の小割球は、自律分化によって中胚葉性の一次間充織細胞となる一方、隣接した大割球から細胞間相互作用により内・中胚葉を誘導して原腸を形成させる。当研究室ではこれまでに、内・中胚葉分化の分子メカニズムや小割球由来細胞の分化カスケードの研究を行っており、それらに関与する遺伝子のクローニングおよび機能解析を行ってきた。また最近は、ウニの成体原基を形成する小小割球由来細胞の分化と維持に関わる遺伝子群に着目し研究を展開している。
ゲノムDNAはクロマチン構造を形成し、細胞の核内にコンパクトに収納されている。このようなクロマチン構造の中で、ゲノム上の遺伝子はいかにして適切に発現しているのだろうか。そこで当研究室では、バフンウニのアリルスルファターゼ遺伝子の上流域で同定されたArsインスレーターの作用機構や、ウニの初期発生における染色体や遺伝子の動態についても研究を行っている。
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微細藻類のゲノム編集システムの開発
近年新規の再生可能燃料として微細藻類の蓄積する油脂を変換したバイオディーゼルが注目されている。微細藻類は脂質の生産能力が高く、食料生産と競合しないなどの多くの利点があるが、一方で化石燃料に比べて生産コストが高いことが問題である。そこでゲノム編集により油脂生産性を高めた高機能藻類の構築を目指して、現在ナンノクロロプシス、ユーグレナ、クラミドモナスという3種の微細藻類におけるゲノム編集システムの開発を進めている。
形態形成におけるアリールスルファターゼの機能
アリールスルファターゼは調べられているすべての生物種がもっており、リソゾームに局在する酵素として知られている。アリールスルファターゼは疾病に伴い発現量が大きく変化することや、アリールスルファターゼ遺伝子の変異により重篤な脳機能障害が起きることから、従来から研究の蓄積が多かった。しかし、生体内の基質や機能などはまったく不明であった。